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赤と青のガウン オックスフォード留学記

たくましさを獲得していく留学記としてふつうに面白かった。
特殊事情として、”当初辛かったのは側衛がいなくなったこと”からして一段と落差が大きかっただろう。
後に、武道が達者で英語の話せない迷子になった側衛を探し回ったという。
”日本のことをいかに知らなかったを思い知らさせた”のだから、一般人は自分を責めることはない。
”自分ができることは他人もできると思っている”という厳しい指摘も。
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2023.06.03 Sat l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
シルバー民主主義 - 高齢者優遇をどう克服するか

年金、医療などの社会福祉制度や企業の雇用形態には、持続可能性の観点で問題が山積みで今にも倒れそうである。
しかし、政治家が当面の選挙に勝つために高齢者の既得権を守ろうとするシルバー民主主義が影響力を持つため、改革は進まない。

高齢化は先進諸国で共通だが、日本の特徴として、
・高齢化が特に進んでいる
・若者の投票率が低い
・負担少なく給付多くという矛盾した要求の下で不健全化しやすい。例えば米国では小さな政府vs大きな政府の対立軸がある。

年金給付を下げたら訴訟が起きた。
民主主義なら、高齢者を納得させて改善するしかない。

例えば、借金が積み上がって何が問題か。
確実なことは、ある時点で信用が失われて価格が暴落し、新規発行不能になること。
国債からの穴埋めがなくなり、社会保険料収入(2015年で55%)と給付を同じにすると、単純計算で給付が55%に下がる。
それがいつかはわからない。
今の高齢者にも目の前にそのリスクがあると知らせることが脱却の一手である。

医療保険や税制も同様。
目を覆いたくなるような事実が並んでいる。
制度の前提の家族構成などが何十年も前から変わっていない。
高齢者優遇を変えるインセンティブに乏しく、現状維持が続く。
日本が相対的に貧しくなる。


感想
シルバー民主主義はシステムとしてあたり前の状態に思える。
誰が悪いということはなく、仕組みの特性である。
厚労省が年金100年安心と主張していることなど色々と目を疑うが、
それも人々の総意が選んでいるということ。
いくら妙案でも高齢者に不利な、または不利と思われる変更は受け入れられない印象。

高齢化は少産少死を戦略とする生物の末路として必然と思われ、
民主主義は比較的マシなシステムと考えると、
何かが生まれ繁栄して消滅していく自然サイクルの後半にいるようだ。
カリスマの登場に期待するにしろ、皆で実態を知ることから始めたいところ。

随所にムダがあるから、費用を抑えながら高齢者の満足度を上げる策はあると思う。
例えば、話し相手になるロボット(ChatGPT搭載のモニター付きアマゾンエコーくらい)を配るので、代わりに財源として給付を下げますとか。
病院に行くよりも楽しいと思えるかもしれない。
テクノロジーが間に合うかどうか。(温暖化の問題に似ている)
2023.05.19 Fri l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
ビルゲイツ氏の「地球の未来のため僕が決断したこと」(原題"How to avoid a climate disaster")

炭素排出ゼロ化についての総まとめ。
ざっくりと把握できる。

現状の内訳はおおよそ、
 生産(セメント、製鉄、プラスチック) 3割
 発電 3割
 食料生産 2割
 輸送 2割

排出ゼロの方針
 1.炭素排出ゼロで発電(再エネ、核融合など)
 2.上記内訳の発電以外を電化(人工食料、電気を水素に変えて貯蔵・輸送など)

やれること
 技術に投資←政策←個人の日常からの意識変革


感想
導入でのなぜ炭素排出ゼロが必要かの論拠がもう一押しほしい。
例えば地球の自然な温暖化と、人の影響を分離できるのかなどの懐疑論に応えられない。
個人的には、大気二酸化炭素中の炭素13同位体の割合が最近減っていて、炭素循環への化石燃料(生物の炭素13は少ない)の寄与を示唆、が強いと思う(メモのリンク)。これ以外でも何でもいいけど。

ごくたまに路上で水素自動車MIRAIを見かけるけど、自転車には及ばないぞと思ったりはする。
健康を増進し、社会保障費の一部を科学技術に回してほしい。
2023.05.14 Sun l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
https://www.amazon.co.jp/dp/4480684468/

信念の問題とされがちな生の目的や価値に対して、生物的な視点から答えようとしている。
たんたんと端的に書かれていて説得力があった。


概要

生命とは増える能力が作り出した物理現象である。
生命の出発点は、増えて遺伝する性質をもった物質が偶然現れ、進化のループが回り始めたことにある。

現代人は進化的には狩猟採集時代からあまり変わっておらず、本能も残っている。
例えば狩猟採集生活では平等が重んじられた。
なぜなら自分が獲物が取れなかった時に分けてもらえないと死活問題だから。
現代では、技術によって平等は死活問題ではなくなり、ギャップが生じた。
現実が本能にそぐわないとき、悩みが生じる。
悩みの解決には、悩みの生物的な由来を理解し、悩む価値があるか吟味するとよい。
無いと思えば、無視して自由に生きればよい。

生物の生存戦略には、多産多死と少産少死の二方向がある。
人は後者の最たるものである。
死ににくくなる、人の維持コストが増大、出生数が減少、は生物的に必然の流れ。

人に生きる目的や使命はない。
なぜなら人は増えて遺伝する物理現象の末裔だから。
広い宇宙といえど、生命の持続期間を考えると今この瞬間には地球が唯一かもしれない。
この希少な生命と文明の維持には価値がある。
自分の命は自分と関わる全ての人の命の一部でもある。
子孫を残すことは全てではなく、社会の中で自分の役割を果たすとよい。

筆者は、人の文明の維持は結局他の生物と同じことで物足りないと感じる。
ミームは、人の頭の中に広がる考え方やアイデアである。
芸術や文化、研究を含むミームは、生命と同じく頭の中で増えて淘汰され進化する。
ミームを発展させることが、増えるものの既定路線から外れた、予想のつかない魅力的な世界につながるかもしれない。
2023.05.07 Sun l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか

練習をつきつめていって、認知の科学的理解へ興味が向かうのは自然な流れ。

・世界は大きくは変わらない前提で、習慣によって、人は複雑な世界でうまく生きている。
・習慣の特徴は、自動的に行われることと、引き金によって目標に関係なく実行されること。
・自動化することで考える行為を減らせる。

・習慣(悪習)を変えるのは難しいが、最善策の一つは環境を変えること。例えば引越し。
・悪習の引き金を徹底的に環境から取り除くと有効。
・自制心を働かせるのではなく、働かせる必要のない状況を作るとよい。

・ドーパミンの作用等の習慣化のメカニズムの解説(流し読み)

・心理学、脳科学分野の論文のうち、再現性が確認されたのは3割程度との報告がある。
・何かを説明する(有無で有意差がある)仮説を設定するとき、
 有意差の現れた結果が論文になり、有意差の無かった結果は公表されにくい。
・ワクチンの陽性を仮説の有意差ありに対応させると、偽陽性の割合が多くなる。

・現代の肥満の要因の一つは食事の悪習と見なせる。加工度が異なり単位量あたり同カロリーの食事を好きなだけ食べられる実験で、加工度が高いほど摂取カロリーが多くなった。

・運動習慣を付ける実験で、数か月の実験中は続けられても、実験が終わると運動習慣は失われることが多い。


感想
・目標達成のために習慣を利用した個人的経験がいくつか思い出される。
・ヒルクライムに向けての練習の積み上げでは、帰宅後に迷う余地を与えないようにローラー台を常設し、ルーチンで10分走の”アップを開始”するように仕向けた。
・過度に食べないために、家にストックは置かない。おやつは都度買いに行く。歩いている間に、本当は食べたいのではなく、ただ気分を変えたいだけと気づくことがある。
・このブログで週に1回くらいは何かを書くようにしている。細かい体裁を気にせず自由に書く。
・最近英語を使わないので、翻訳ツールに突っ込んで手直しした英語版を作ろうとしたが数本で止まった。続ける上で何が足りないのだろうか。
・読んだ本の整理は、
 キンドルで流し読みしながら気になった箇所に印付け、
 最後まで行ったら印のリストだけ読む、
 このうちポイントのみ書く、
 とやり方は決まっている。
・通勤でラジオを聞いていると、全く無意識のうちに電車を乗り継いで会社について途中の景色を思い出せないことがある。
・いちいち考えるのは大変で、環境設定するとよいのはその通りと思うのでこれからも利用したい。

・本書の原稿はコロナでロックダウンが始まって3か月のアメリカの都市で書かれた。コロナで身についた新しい習慣は、コロナ後に生活が元に戻らないのではと筆者は予想した。
→この予想ははずれたようである。ここで、過去の習慣に戻ることと、新しい習慣が持続することは、どちらに転んでも”習慣を変えるのは難しい”と言えてしまうのではと思った。
2023.04.22 Sat l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
前半に続いて、後半を読んだ。

多細胞生物の謎の一つとして、(ほぼ)全ての細胞にDNAが揃っていながら分化して、各々別の機能を担うことがある。
緊急事態では分化がリセットされ、異なる機能へ改めて分化することがある。
この柔軟性を細胞の”しなやかさ”と呼んでいる。

また、分化する可能性を取り戻すこともある。
これは、若い胚の一部と混ぜた後に本来の発生を続けることで示される。
このような興味深いいくつかの事実を示した上で、”しなやかさ”の仕組みはほぼ何も理解されていないと指摘。

ここで、素人の自分でもiPS細胞が連想される。
iPS細胞を説明できるか考えてみたら、ほとんど何も知らないことに気づいた。
イメージとしては、分化をリセットし、様々な機能へ改めて分化できる細胞くらい。

少し調べると、ブレークスルーは特定のいくつかの遺伝子を導入してiPS細胞を作れたこと。
がん化リスクを抑える改善と臨床応用が試みられている。
本書が出版された35年前の時点での夢の一部がいま実現しているのだなと思った。
2023.04.13 Thu l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
我々は生命を創れるのか

生命の発生については、以前にも少し考えたことがあった(記事)。
持久力を考えてミトコンドリアに行きつき、その起源の共進化から生命誕生へ行きつくのはもはや自然な流れ。
本書では、分子の視点のアプロ―チとは違った、動く人工細胞レシピも紹介され、実感がわいて面白かった。

驚きポイント
1.新種アミノ酸の合成
アミノ酸のシステインはそれ自体を含むタンパク質によって作られる。
作るために必要なたんぱく質のシステインを、生物無しで生成し得る他のアミノ酸に置き換えても、システインを作れた。
つまり新しいアミノ酸が合成されうる。

2.鉄硫黄クラスター
有機物を分解してエネルギーを得る呼吸には鉄硫黄タンパク質が不可欠。
鉄と硫黄といえば鉱物で、その表面で代謝のような酸化還元反応が発生した可能性がある。

3.ATPと核酸
アデニンは遺伝情報を構成する4つの核酸(RNA、DNA)塩基の1つ。
アデニン+リボース=アデノシン(ヌクレオシド)
ヌクレオシド+リン酸=ヌクレオチド
ヌクレオチドの長鎖=核酸

エネルギー通貨のATPはアデノシン+3リン酸
アデノシン+1リン酸(AMP)はヌクレオチドで、核酸そのものの一部。
ATPはエネルギー通貨という断片的知識が遺伝情報そのものと結びついてハッとした。


今分かっていることは断片的ではあるが、現存する生命が一部を非生物的に作れる分子に置き換えても機能する場合があることと、新たなアミノ酸を合成できる例がある事実から、漸化式のパーツの存在は証明されていると思われる。化学進化がうまく回れば、長い時間をかけて生命は発生し得るという素人想像はできた。しかし具体的なプロセスの解明は、カオスの初期値に近づこうとするようなもので、困難に思える。
2023.04.02 Sun l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
タバタトレーニングについての本を読んだときに、あとがきで、筆者は大学に入るまで有機化学をやろうと思っていたが、ブルーバックスの「細胞の社会」を大学一年の時に読んで生物系へ進路を変えた、自らがブルーバックスを執筆できて光栄と書かれていた。これを読んだら即買いしかない。

後で気づいたことには、上で言及されていたのは旧版で、自分は新版を買っていた。内容はけっこう違うらしいが、新版でもインパクトはあった。受精卵からの発生や細胞のダイナミクスを題材に、生物学の興味深さが平易に魅力的に描かれている。
細胞の社会(旧版)
細胞の社会(新版)

平易ながら厳しさも提示する。ある機能をもった分子の同定のための単クローン抗体法では、無数にある抗体と抗原の組合せについて、一つの細胞では一種類の抗体のみが作られる性質を利用する。例えばマウスの細胞をつぶしてラットに注射すると、ラットの膵臓では無数の種類の抗体が作られる。膵臓の細胞一つ一つを別の容器に入れて培養し、調べたい機能が抑制されるかをひたすら調べる。数千のテストの中から一つ見つけたという話。

生物の教科書に書かれるようなこの分子の作用でこれが起こるという記述の羅列は一見単調である。当方は高校1年で生物を離脱した。しかし、これらの記述が本書で書かれているパズルを解くように技巧的で膨大な実験を積み上げた結果であることを最初に知っていれば見方は変わったかもしれない。本書の出版は35年前と古いが、前提知識がほぼ無いのでどこを読んでも新鮮な驚きがある。第一の感想は、今生きているのは奇跡と感じたことであった。
2023.03.18 Sat l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
「学び」の構造
を読んだ。

学ぼうとするとき、まず「おぼえ」ようとする。
「おぼえる」と「わかる」は違いそうである。
「わかる」とは、おぼえた知識ではわからないところがわかること、
その空白について問い続けること、
過去の経験を含めた出来事を関連づけ納得すること(この意味で主観的)。
いつまでも深くわかりつづけることになる。

教えることの機械化を考えると、目標の明文化が必要。
コロンブスがアメリカを発見したのような命題を教える場合、
教えられている側がわかったか、おぼえただけかは外から判別できない。
明文化は困難だが、わかった状態の表れとしての兆候を手掛かりに導くことはできる。
学び続けることでより深くわかっていく。

学びの過程は段階に分けられる。
丸暗記、目標に照らした選択、目標の探求と一貫性の獲得、一貫性を他人に広げる。
学びの問いも段階に分けられる。
前提や当たり前を問う、経験に照らして意味を問う、関連を問う、世の中での役割を問う。
なお、学びの領域には知識の他、芸術や宗教も含まれる。

何のために学ぶかという問いは、人間とは何かという問いに行きつく。
世の中をよくしていくため、問い直し、直観に従って方向を定め、理性によって学び続ける。
人間とは学ぶ存在である。


感想
・文献を読んで何もわかっていないことに気づいたとき、わかったことの傍証の一つは得られたのだろうと思った。
・教えることの機械化はまさに行われつつある。本書の出版は1975年と50年近く前である。わかったことの検証不可能性は変わっていないが、教師の省力化への貢献に意義があろう。
・小中高校生にとっては入口のおぼえるところに動機付けが必要で、ロジック以外の授業関連の身体情報や教師の人間的魅力は大きな要因と思うので、機械化の難しい部分がある。
・わかる経験は重要で、例えばゲームやスポーツを突きつめてわかると、知識の領域でも応用が利きそう。
・わかっている人の雰囲気を見ることによっても、わかる状態に近づくヒントが得られそう。
2023.03.05 Sun l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
1日4分 世界標準の科学的トレーニング 今日から始める「タバタトレーニング」 を読んだ。

田畑先生によるタバタトレーニングの解説書でありながら、
1.タバタトレーニングの方法
2.身体とトレーニングの基礎(定量化)
3.トレーニングの組立(原理、原則、要素)
4.分子生物学から見たトレーニング効果
の構成で、後半はトレーニングの総まとめとしてとても良かった。これ一冊で完結。
原理原則を抑えておくと軸ができて、新しい手法の是非を考えるのに役立つ。
意識性の原則に言及されていて、トレーニングの目的を明確にして納得してやることが効果を高める。

タバタトレーニングの方法
・Vo2maxの170%負荷20秒+休息10秒を8セット、4分間行う

個人的発見
・タバタトレーニングは、
 有酸素性運動(Vo2が最大に達する)と、
 無酸素性運動(酸素借が最大に達する)の
 両面を最大限刺激するプロトコルである。

・無酸素性運動を続けて、クレアチンリン酸が枯渇し、
 筋肉のPhが下限(人によらない)に達すると運動が停止。
 耐えられる乳酸濃度の上限は筋肉中の緩衝作用に依り、人により固有の値になる。
 
・分子生物学的に、トレーニング効果のうちミトコンドリアの酸化酵素の増加はPGC1αの濃度上昇に関係する。
 この濃度はトレーニング直後には上がらず、徐々に増えて24時間後まで上昇が続く。運動が記憶され適応が進む。



ところで、今までタバタをきちんとやったことがなかった。理論上の効果はよく理解できたので、長尾台の上りの実走でやってみた。

430Wくらいでつっこんだら3回途中で疲労困憊に達してしまった。2セット目も2回目には350Wくらいに低下し20秒も持たなくなった。

良くなかったのは、
 負荷が高すぎた
 一部ダンシングで安定しなかった
 加速に合わせた変速がうまくできていない

やり方を確立するまで慣れる必要がありそう。
2023.02.19 Sun l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲