Optimizing the breakaway position in cycle races using mathematical modellingの中に見たことのない疲労モデルがあったので読んでみた。
概要
ラスト20キロでの、集団からゴールまで逃げるベストなタイミングを調べた。
書いている人の専門は
数理っぽい
前提
・逃げは1人で、1度だけ。ゴールまで行く。
・集団は無限に維持できる一定出力(ペースアップしない)。
方法
・一定の力Fsで、勾配変化の小さい範囲のコースを進む距離とかかる時間の解析解を求める(12,15)。距離or時間を時々刻々求めるより速く計算できる。sin波のような勾配のコースで、数値的に求めた距離、時間と解析解はだいたい合う。精度の点では、実際には標高の点列データしか得られないのであまり変わらなさそう。トラックのような勾配の関数が得られる場合にはこの限りではないか。
・ここではエネルギーではなく力の釣り合いを考えている。物理的には
同じ。
・逃げる人は、全開でアタックすると仮定する。
・出せる力が落ちていく様子をモデル化する。しばらくがんばると、血中カリウム濃度pが、出した力Fpと無限に維持できる力Fsの差に比例して上昇する(23b)。これは、W'が出したパワーとCPとの差に比例して減る式と同じ。Fs以上で蓄積するものと言えば乳酸もあるが、同じ式を仮定できるので、同じ議論になるとのこと。
・カリウム濃度がある閾値p1以上になると、pとp1の差の指数関数に比例して出せる力Fpが減ると仮定する(24)。指数のp-p1にかかる比例係数aは、その選手の走力を表し、aは小さいほど良い=出せる力が落ちる速度が遅い。
・アタックした後にタレると、Fs(CP)すら維持できなくなることをモデル化する。Fs以上の出せる力は、Fsからの追加分Fb0に比例した速度で時間とともに減少すると仮定する(27,28)。Fb0の減少速度の比例係数bは、選手の走力を表し、bは小さいほど良い。
・逃げはゴールまで突き進むとしているので、回復は考えない。ただし計算上、pは出す力FpがFs以下になった結果、Fsとの差に比例した速度で回復(pが低下)する。
・集団が受ける空気抵抗は、逃げの0.7倍とする。
・各変数を固定し、ゴールでの逃げと集団とのタイム差がもっとも広がる逃げのタイミングを調べた。
結果
・フラットでは、ゴール前2.5kmで逃げるのが良い。
・ゴール前に上りがあれば、上り始めから逃げるのが良い。
・上りの頂点がゴールに近い、勾配または標高が高いほどタイム差は大きい。
・ゴール前に谷があれば、底で逃げるのが良い。
感想
・複雑な現象を大胆な仮定をおいて調べた。結論は当たり前のように見える。今後、複数逃げや集団ペースアップなどへの拡張が待たれる。
・エネルギーではなく力の釣り合いを考えると、物理的には同じだが、生理的にはパワーと力(トルク)で異なる。W'をトルクベースで求めてみるのも面白そう。
・W'は出せるエネルギーのキャパシティーのモデルで、本文のpはある時点で出せるパワー(力)のモデルなので、異なる。現実の走力にaやbを合わせこんで、回復も考えたら、いろいろな戦略を試せそう。
・仮定する
反応速度の次数を比べると、pの変化速度はpに無関係な一定値に比例する0次。W'の減る速度も0次。W'の回復速度は、出すパワーとCPの差と、その時点のW'とフル充電時のW'0の差の積に比例するので、W'0に収束する1次(
W'の解説)。いい感じにW'0に収束させるためには必然的にこうするよなと思った。
・解析解を求めているけど、出す力が変化したら区間を切らないといけないので、計算時間はそんなに大きく変わらない気もする。
・血中カリウムの濃度を
測った例を調べたら、1回5ml採血するとのことで敷居が高かった。5mlは1cm×1cm×5cmである。