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ロシアの眼から見た日本: 国防の条件を問いなおす

本屋をうろついているときに本書が目に入った。
まさにいま戦争が勃発しているわけだが、情勢のイメージが無く、日本のふるまいについても意見がなかった。自分の世界史や政治の知識は高校受験で止まっている。ぱらぱら見ると外交の解説があった。これまた全く知見がないので読んでみた。将来子供がこの本を見たとしたら、自分が生まれたのはあのウクライナ戦争の始まりの時期だったと認識するかもしれない。

概要
・国際政治は「自然状態」にあるので、法的秩序は不可能であり、権力的秩序のみがありうる。
・ある地域の平和を実現する方法には、一つの大国による支配か、複数の大国による均衡がありうる。
・均衡の実現には、一部の国が均衡を破ろうとしたときに他国が待ったをかける負のフィードバックが必要。
・外交とは相手の真意を探ることである。外交による不断の調整努力が必要。

・今回の侵攻のきっかけは、ソ連圏に属していたウクライナにNATOが軍事支援を始めて現状変更を試みたことであった。ロシアはウクライナのNATO非加盟を求めるなど外交による妥結点を提案したが、NATO側が拒否した。危機感を持ったロシアが対抗した。ロシアの行動を狂気とみるのは一方的に過ぎる。

・日本の立ち位置を考えるにあたり、明治以降のロシア(ソ連)と日本の関係を解説。敵対と協調、両方の時期があった。日本は開国以来、日本の植民地化を防ぐことをめざし、朝鮮を独立国家として列強に認めさせ、対ロシアの防波堤にしようとした。日清日露戦争に勝ち満州での列強と互いの権益を認め合うに至ったまでは良かった。しかし、ロシア革命と中国の内乱で力の余白ができたことで、うっかり大国(覇権国家)をめざしてしまい、失敗した。ソ連は日本と国交を回復してアメリカ支配を認めることで、極東でのアメリカとの力の均衡を図った。

・現在、ロシアからは日本はアメリカの衛星国とみなされている。自己決定権はなく、その運命はアメリカの極東政策に依存している。
・日本は何をめざすか。アメリカ依存か、独立か。筆者は前者の方針で、日本にできることは極東でのアメリカのプレゼンス維持への寄与だという。防衛力は安全保障の一部でしかなく、その増強はウクライナのように戦禍を吸い寄せる恐れもある。外交による調整力こそが重要。

個人の感想
・日本の行動に主体性がないという根拠のないイメージはあったが、歴史的経緯と力のバランスを考えれば自己決定権がないことが明確に理解できた。
・個人的には平和が第一なので、当面アメリカの衛星国の立場維持がよさそう。独立した主権国家への道は、希少元素を含めた資源がない時点で物理的に不可能だろう。
・最近の防衛力強化の是非については、極東の均衡に寄与したいところ。問題は東側または西側が現実変更を試みたとき。防衛力が今より強ければ均衡のために動く選択肢は増えるだろうが同時に誤る可能性もある。いずれにしろ筆者のいう外交による各国の真意の理解が必要に思える。重要なことは、万が一侵攻を受けたとして早期終結の判断だろう。
・本書の要素の一つ一つは興味深いが、歴史の記述と一般論が入り乱れていて、読み返しての整理がしにくかった。
・本書にない視点として、世界に不可欠な独占産業をもつことがある。交渉力になりそうだが逆に侵攻される理由にもなりえて、防衛力と似た二面性がありそう。
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2023.06.23 Fri l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
マイクロソフト ― ソフトウェア帝国誕生の奇跡

自分が物心ついたときにはwindows(98あたり)がすでに家に存在していた。
コンピュータとほぼ同義だったと思われるwindowsがどのように覇権を握っていったかを知らなかった。

きっかけは、1968年にまだ得体の知れなかったコンピュータを導入した中学校があり、そこにビルゲイツ少年がいたことだった。オタク成分をコンピュータに全振りし、厳しい競争を勝ち残った。売り込み上手なオタクのハードワークは最強。このゲームのやり込み的な要素は、「創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説」におけるレヴチンにも通ずる。プレイするゲームの性質が変わっていくに過ぎないようにも見える。
エクセルの誕生も飛躍ではなく、先行する競合をどうにか倒すための模倣、組合せ、改善の一環であった。

子供を見ていると、何かに熱中する湧き出るポテンシャルは誰もが持っていて、穴をあけると噴き出てくる。ポテンシャルの高さと穴の適切さがマッチすると大きな力になりそう。
2023.06.17 Sat l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
Kyoto Fusioneering’s Mission to Accelerate Fusion Energy: Technologies, Challenges and Role in Industrialization

核融合発電実現の可能性について、個人的に知見がなかった。
反応そのものについてはよくわからない。
上記の文献に、プラント建設の課題とエネルギー収支の一例があった。
これなら想像しやすい。

注目点
・代替電源(再エネ+蓄電など)の競争力が増し、発電への参入は難しくなっている。発電は核融合利用のとっかかりであり、熱利用も視野。
・根本的な問題として、使用に耐える材料(高温、放射線下)が現状では存在しない。制約として、産地の偏った希少元素は使いたくない。これは時間をかけたら解決するかは不明。解があるかは究極的には神がどのように物理世界を作ったかによ依る。
・図8によると、核融合反応の出力/入力の比が20の場合、150MWを入れて3000MWが出てくる。楽観的な仮定で損失を考慮すると、400MWを売電できる。

個人的感想
・発電利用が最大の開発駆動力と思うが、代替電源との競争での分の悪さを認め、熱利用にも言及していることに驚いた。苦しい印象。
・仮に成立したとして、直観的には、燃料代がほぼタダだとしても、この電力は高すぎると思う。そのような分析もあった(リンク)。安くなるまで時間がかかりそうだが、全方位的脱炭素電源の一角は担いうる。その意義の一つは必要な希少元素の分散と思う。(7/18追記 発電方法ごとの必要鉱物資源
2023.06.15 Thu l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
https://www.amazon.co.jp/dp/B0C2PJWJ9X/

現代の情勢がよく理解できた。
読み進めて疑問に思うことをその場で説明してくれて、まるで質疑しているようで読みやすかった。
この筆の運びはよいお手本になる。

当方は製造業ながら今まで半導体産業になじみがなかったが、広義の製造業としてみれば事の運びは想像できる。
有事のことを別にすると、問題の発端が製造業の”慣性”の見誤りである点は共通と思った。
需要が減れば製造能力は減るし、供給を急には増やせない。
サプライチェーンの一つでも欠けたら製品は完成しない。
技術者を減らせば技術の競争力は落ちる。
経営者も政治家も頭では理解しているのだろうが、振り返ると自滅に見える。
しかし、自分が担当していう数年間がよければよいと考えるのももっともではある。
では技術者がかじ取りをするとよいかというと、よくわからない。
単に先のことを考えるかどうかな気はする。

世界の分断に備えるには、究極的には東西両陣営が自陣で完結するエコシステム(資源、食料を含む)を各々獲得するまで安心できないと思われる。分断の過程で、奪い合いか、よくても非効率(欠けたピースの不完全な代替手段に頼る)になりそう。両者痛い目を見るのは明らかなので、仲良くやっていけたらと思う。
2023.06.07 Wed l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲
赤と青のガウン オックスフォード留学記

たくましさを獲得していく留学記としてふつうに面白かった。
特殊事情として、”当初辛かったのは側衛が付かなくなったこと”からして一段と落差が大きかっただろう。
後に海外で、武道が達者ながら英語の話せない迷子になった側衛を探し回ったという。
”日本のことをいかに知らなかったを思い知らさせた”のだから、一般人は自分を責めることはない。
教授が”自分ができることは他人もできると思っている”という厳しい指摘も。
2023.06.03 Sat l 本・論文 l COM(0) TB(0) l top ▲