質点モデルについて意外と整理したことがなかったので個人の見解をまとめてみた。
レースではある距離を短い時間で走った者が勝つ。「距離=速さ×時間」なので、速く走ればよい。速さは前への推進力と抵抗力とのバランスで決まる。
推進力はペダルを踏む力が元になるが、最終的に後輪と地面の間の摩擦力である。ここで、ギアやタイヤを介して力が伝わる際の損失が除かれる。
抵抗力は、空気抵抗力、転がり抵抗力、重力に分けられる。ノーブレーキですべてのコーナーを曲がると仮定し、ブレーキによる抵抗は考えない。
簡略化のため、自転車と人を質点(大きさが無く重さが自転車と人を合わせた点)と見なす。自転車は概ね前に進むため、左右に傾く方向の動きは考えない。ただし走路が傾いていて鋭く曲がるトラックでは傾きを考えることもある[1]。
力と速さの変化の関係を表す古典力学の運動方程式を出発点としよう。
F=ma (式1)
ここで、Fは物体に加わる力[N]、mは質量[kg]、aは加速度[m/s^2]である。速さを求めるには、質点に加わる力Fを全て書き出せばよい。進行方向を正とすると、
Fp-Fd-Fr-Fg=ma (式2)
ここで、Fpは推進力、Fdは空気抵抗力、Frは転がり抵抗力、Fgは重力の運動方向の成分(坂を上るときに後ろ向きに受ける力)である。(式2)の力の一部を書き換えると、
Fp-1/2ρCdA(v-w)^2-mgCr-mgcosθ=ma(式3)
ここで、ρは空気密度[kg/m3]、Aは投影面積[m2]、Cdは抗力係数、vは速さ[m/s]、wは風速[m/s]、gは重力加速度[m/s^2]、Crrは転がり抵抗係数、θは勾配[rad]である。CdとCrrとは速さによらず一定と仮定する。ロードバイクの場合、CdAは0.3程度、Crrは前後輪合わせて0.005程度が目安となる[2]。
人のがんばり具合(出力)と速さの関係を知りたいので(式3)を変形する。出力の単位の定義1[W]=1[N]×1[m/s]より、(式3)の両辺に速度vをかけると出力[W]の次元となる。
P*Cm-(1/2ρCdA(v-w)^2+mgCr+mgcosθ)*v=mav (式4)
ここで、Cmは動力の伝達効率である。伝達効率を用いることで、ペダル踏力と推進力Fpの関係を考えずに済む。Cmは0.98程度が目安となる[2]。
(式4)は速さvの3次方程式である。これを解く方法は主に2つあり、①適当なvを与えて両辺の差がゼロになるvを探すか、②3次方程式の解の公式を用いて直接求める[3]。
使用例1:変数一定
(式4)で加速度a=0とすると速さvが求まる。厳密に一定でなくとも、ある区間の勾配やパワーの平均値を使えば平均速度とタイムを概算できる。また、機材変更による変数の変化を想定すればタイムへの寄与の見積に使える。
使用例2:変数が変化
勾配やパワーが変化する場合、短い区間に分けて、区間内で変数を一定と見なして速さとタイムを求める。実際のコースの標高データは距離と標高のペアの数列なので、元から分けられていることになる。
現在の区間(長さΔLi)での速さviと区間タイムΔtiを用いて次の区間の速さvi+1を求める。加速度の定義a=(vi+1-vi)/Δtiと(式4)より、
vi+1=vi+Δti*(PCm/vi-(1/2ρCdA(vi-w)^2+mgCr+mgcosθ)) (式5)
初期速さv0を与えると、次の時刻の速さが順次求まる。積み上げるとコース全体のタイムが求まる。
例えばstravaから入手できる標高データの区間長さは10~100m程度であり、時速36km/hとすると、区間タイムは1秒~10秒となる。目的にもよるが、分解能が問題となることは少ない。
一方、区間タイムΔtを一定とする方法もある。現在時刻の速さviと区間長さviΔtの平均勾配θiを用いて次の時刻の速さvi+1を求められる。区間長さが変わるため、勾配θiを標高データから内挿して都度求める手間がかかる。どちらの方法でも結果は変わらない。
なお、出発点として(式1)ではなく、力学的エネルギー保存則を用いる方法もある。これは(式1)を変形したものなので[4]、結果は変わらない。運動を記述するために全ての力を書き出すことがポイントなので、ここでは(式1)を用いた。
参考文献
[1]https://link.springer.com/article/10.1007/s12283-018-0283-0
[2]https://www.amazon.co.jp/High-Tech-Cycling-Edmund-R-Burke/dp/0736045074/
[3]http://www.matjazperc.com/publications/ApplMathComput_251_24.pdf
[4]http://hooktail.sub.jp/mechanics/enaglaw-derive/
レースではある距離を短い時間で走った者が勝つ。「距離=速さ×時間」なので、速く走ればよい。速さは前への推進力と抵抗力とのバランスで決まる。
推進力はペダルを踏む力が元になるが、最終的に後輪と地面の間の摩擦力である。ここで、ギアやタイヤを介して力が伝わる際の損失が除かれる。
抵抗力は、空気抵抗力、転がり抵抗力、重力に分けられる。ノーブレーキですべてのコーナーを曲がると仮定し、ブレーキによる抵抗は考えない。
簡略化のため、自転車と人を質点(大きさが無く重さが自転車と人を合わせた点)と見なす。自転車は概ね前に進むため、左右に傾く方向の動きは考えない。ただし走路が傾いていて鋭く曲がるトラックでは傾きを考えることもある[1]。
力と速さの変化の関係を表す古典力学の運動方程式を出発点としよう。
F=ma (式1)
ここで、Fは物体に加わる力[N]、mは質量[kg]、aは加速度[m/s^2]である。速さを求めるには、質点に加わる力Fを全て書き出せばよい。進行方向を正とすると、
Fp-Fd-Fr-Fg=ma (式2)
ここで、Fpは推進力、Fdは空気抵抗力、Frは転がり抵抗力、Fgは重力の運動方向の成分(坂を上るときに後ろ向きに受ける力)である。(式2)の力の一部を書き換えると、
Fp-1/2ρCdA(v-w)^2-mgCr-mgcosθ=ma(式3)
ここで、ρは空気密度[kg/m3]、Aは投影面積[m2]、Cdは抗力係数、vは速さ[m/s]、wは風速[m/s]、gは重力加速度[m/s^2]、Crrは転がり抵抗係数、θは勾配[rad]である。CdとCrrとは速さによらず一定と仮定する。ロードバイクの場合、CdAは0.3程度、Crrは前後輪合わせて0.005程度が目安となる[2]。
人のがんばり具合(出力)と速さの関係を知りたいので(式3)を変形する。出力の単位の定義1[W]=1[N]×1[m/s]より、(式3)の両辺に速度vをかけると出力[W]の次元となる。
P*Cm-(1/2ρCdA(v-w)^2+mgCr+mgcosθ)*v=mav (式4)
ここで、Cmは動力の伝達効率である。伝達効率を用いることで、ペダル踏力と推進力Fpの関係を考えずに済む。Cmは0.98程度が目安となる[2]。
(式4)は速さvの3次方程式である。これを解く方法は主に2つあり、①適当なvを与えて両辺の差がゼロになるvを探すか、②3次方程式の解の公式を用いて直接求める[3]。
使用例1:変数一定
(式4)で加速度a=0とすると速さvが求まる。厳密に一定でなくとも、ある区間の勾配やパワーの平均値を使えば平均速度とタイムを概算できる。また、機材変更による変数の変化を想定すればタイムへの寄与の見積に使える。
使用例2:変数が変化
勾配やパワーが変化する場合、短い区間に分けて、区間内で変数を一定と見なして速さとタイムを求める。実際のコースの標高データは距離と標高のペアの数列なので、元から分けられていることになる。
現在の区間(長さΔLi)での速さviと区間タイムΔtiを用いて次の区間の速さvi+1を求める。加速度の定義a=(vi+1-vi)/Δtiと(式4)より、
vi+1=vi+Δti*(PCm/vi-(1/2ρCdA(vi-w)^2+mgCr+mgcosθ)) (式5)
初期速さv0を与えると、次の時刻の速さが順次求まる。積み上げるとコース全体のタイムが求まる。
例えばstravaから入手できる標高データの区間長さは10~100m程度であり、時速36km/hとすると、区間タイムは1秒~10秒となる。目的にもよるが、分解能が問題となることは少ない。
一方、区間タイムΔtを一定とする方法もある。現在時刻の速さviと区間長さviΔtの平均勾配θiを用いて次の時刻の速さvi+1を求められる。区間長さが変わるため、勾配θiを標高データから内挿して都度求める手間がかかる。どちらの方法でも結果は変わらない。
なお、出発点として(式1)ではなく、力学的エネルギー保存則を用いる方法もある。これは(式1)を変形したものなので[4]、結果は変わらない。運動を記述するために全ての力を書き出すことがポイントなので、ここでは(式1)を用いた。
参考文献
[1]https://link.springer.com/article/10.1007/s12283-018-0283-0
[2]https://www.amazon.co.jp/High-Tech-Cycling-Edmund-R-Burke/dp/0736045074/
[3]http://www.matjazperc.com/publications/ApplMathComput_251_24.pdf
[4]http://hooktail.sub.jp/mechanics/enaglaw-derive/
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