1.パワー一定
人の走力を表す方法として、一定のパワーで走ったときに維持できる時間とパワーのカーブが描ける。実際にパワーと時間のカーブを描くと、時間を長くしても(例えば1時間以上)、維持できるパワーがあまり下がらなくなる。このパワーをCritical Power(CP)という。
一方、高いパワーの維持時間は短く、低いパワーの維持時間は長い。そこで、2~20分程度の走力を大まかにCPを超える分のパワーと時間の積W’[J](ダブルユープライム)が一定とみなしてモデル化する。一定パワーPを維持できる時間tは、CPとW’の2変数で表せる。
W’=(P(t)-CP)×t (式1)
グラフ上では、反比例のグラフの横軸の漸近線がCPとなる。生理的には、CPはエネルギー源として無尽蔵にある脂肪の酸化能力に対応し、W’は瞬発的な運動の主なエネルギー源であるクレアチンリン酸の保有量に対応する[1]。
(式1)のカーブのパワーは、特に2分程度以下では急に上昇し実際のカーブから乖離する。短時間の発揮パワーはエネルギー供給以外の制約も受けるため、ここでは考えない。
一方、高いパワーの維持時間は短く、低いパワーの維持時間は長い。そこで、2~20分程度の走力を大まかにCPを超える分のパワーと時間の積W’[J](ダブルユープライム)が一定とみなしてモデル化する。一定パワーPを維持できる時間tは、CPとW’の2変数で表せる。
W’=(P(t)-CP)×t (式1)
グラフ上では、反比例のグラフの横軸の漸近線がCPとなる。生理的には、CPはエネルギー源として無尽蔵にある脂肪の酸化能力に対応し、W’は瞬発的な運動の主なエネルギー源であるクレアチンリン酸の保有量に対応する[1]。
(式1)のカーブのパワーは、特に2分程度以下では急に上昇し実際のカーブから乖離する。短時間の発揮パワーはエネルギー供給以外の制約も受けるため、ここでは考えない。
2.パワー変動
実際のライドでは、パワーは一定でなく変化する。W’の残量W’bal[J](W’balance)は、パワーがCPより高いときには減って消耗し、低いときには増えて回復するモデルを考える。W’balは余力を表すので”きつさ”の指標とも見なせる。
2.1.消耗局面
CPより高いパワーP[W]で時間Ts[s]走ると、W'balの減少量W’exp[J](W’expended)はCPより高いパワーの仕事量となる。
W’exp=-(P-CP)×Ts (式2)
2.2.回復局面
2.2.1.回復モデル1(integral algorithm)
求めたい時刻の減少量W’expは、前の全ての時刻の減少量の回復後の値の合計となる。積分の形で書けるのでintegral algorithmと呼ばれる。
時刻uの減少量W’exp(u)は、時間が経つと時定数τ[s]の指数関数で減少する。回復後の時刻tでの減少量W’exp(t)[J]は、
W’exp(t)=W’exp(u)×e^(-(t-u)/τ)(式3)
時刻tの残量W’bal(t)は、初期値をW’0として、(式3)のuを0~tとして各々の回復後の減少量W’exp(u)を積分する。
W’bal(t)=W’0-∫(u=0 to t)W’exp(u)×e^(-(t-u)/τ)du (式4)
回復時のパワーPが低いほど回復は速く、回復の速さを表す時定数τは小さい。実験結果から以下の近似式が得られている[2]。
τ=546×e^(-0.01(CP-P))+316 (式5)
例えば、 CP-P=200Wとすると時定数τは約400秒となる。減少量W'expは400秒経つと1/3に減り、1200秒経つと5%に減る(95%は回復する)。実験[2]では、60秒踏んで30秒休むインターバルを続けられなくなるまで繰り返すテストを、回復時のパワーを変えて複数回実施。終了時点でW'balがゼロになるτを求め、回帰式を作成した。ただし、エリートサイクリストの回復は速いので、(式5)によらず個別にτを測定することが望ましい[3]。
(式5)の回復時パワーPを実際の走行データから求める方法は2通りある。
(a) static tau
Pは一日の全データのうちCP以下のパワーの平均。一日の中で一定値となる。
(式5)の導出時と同じ方法である。
(b) dynamic tau
Pは現在より前で最後にCP以下となった時刻から現在までの平均パワー。
回復時のパワーに応じてτは変化する。
GoldenCheetahでは(a)が実装されている[4]。
走行データからW’bal(t)を計算する際には、データの時間間隔をTsとして、0からt番目までの減少量の回復後の値を合計する。
W’bal=W’0-Σ(u=0 to t)W’exp(u)×e^(-(t-u)Ts/τ) (式6)
W’bal(t)を順次計算するときに、都度前の時刻0~tの回復後の減少量を計算するにはループが必要で計算量が多い。そこで、逐次計算できるように簡略化する[5]。
W’bal(t)=e^(-t×Ts/τ)×Σ(u=0 to t)W’exp(u)×e^(u×Ts/τ) (式7)
両者の差は小さいことが確認されている[6]。
2.2.2.回復モデル2(differential algorithm)
個人への合わせこみが必要な時定数τを使わずに、簡易的にW’balを計算する方法が考案されている[6][7]。回復速度を定式化するのでdifferential algorithmと呼ばれる。W’balの回復速度は初期値W'0からの減少率と、CPと回復時パワーの差に比例する。
ΔW’bal/Δt=(W'0-W'bal)/W'0×(CP-P) (式8)
走行データから順次計算するには、
W’bal(t)=(W'0-W’bal(t-1))/W'0×(CP-P(t))×Ts (式9)
回復モデル1と比べると、モデル2の回復速度は速い[6]。
なお、いずれのモデルでもW’balは可逆である。一線を越えてオールアウトに達した場合や、糖の蓄えが減った場合の回復速度の変化は考慮されていない。
3.まとめ
走力は、一定パワーでの維持時間に関するCPとW’、パワー変化時の回復速度に関するτの3変数で表せる。計算モデルを使うと、例えばぎりぎり完遂できるインターバルメニューのパワーとレスト時間の設定が可能になる。
いずれのモデルも複雑な生理現象を簡略化している。モデルの精度を上げるためには同じ方法を一定期間使い続け、感覚やメニューの成否と擦り合わせて変数を調整する必要がある。
参考文献
[1] Critical Power: Implications for Determination of VO2max and Exercise Tolerance
[2] Modeling the expenditure and reconstitution of work capacity above critical power
[3] Accuracy of W′ Recovery Kinetics in High Performance Cyclists—Modeling Intermittent Work Capacity
[4] W'bal its implementation and optimisation
[5] W'bal optimization by a mathematician !
[6] Comparison of W’balance algorithms
[7] Intramuscular determinants of the ability to recover work capacity above critical power
2.1.消耗局面
CPより高いパワーP[W]で時間Ts[s]走ると、W'balの減少量W’exp[J](W’expended)はCPより高いパワーの仕事量となる。
W’exp=-(P-CP)×Ts (式2)
2.2.回復局面
2.2.1.回復モデル1(integral algorithm)
求めたい時刻の減少量W’expは、前の全ての時刻の減少量の回復後の値の合計となる。積分の形で書けるのでintegral algorithmと呼ばれる。
時刻uの減少量W’exp(u)は、時間が経つと時定数τ[s]の指数関数で減少する。回復後の時刻tでの減少量W’exp(t)[J]は、
W’exp(t)=W’exp(u)×e^(-(t-u)/τ)(式3)
時刻tの残量W’bal(t)は、初期値をW’0として、(式3)のuを0~tとして各々の回復後の減少量W’exp(u)を積分する。
W’bal(t)=W’0-∫(u=0 to t)W’exp(u)×e^(-(t-u)/τ)du (式4)
回復時のパワーPが低いほど回復は速く、回復の速さを表す時定数τは小さい。実験結果から以下の近似式が得られている[2]。
τ=546×e^(-0.01(CP-P))+316 (式5)
例えば、 CP-P=200Wとすると時定数τは約400秒となる。減少量W'expは400秒経つと1/3に減り、1200秒経つと5%に減る(95%は回復する)。実験[2]では、60秒踏んで30秒休むインターバルを続けられなくなるまで繰り返すテストを、回復時のパワーを変えて複数回実施。終了時点でW'balがゼロになるτを求め、回帰式を作成した。ただし、エリートサイクリストの回復は速いので、(式5)によらず個別にτを測定することが望ましい[3]。
(式5)の回復時パワーPを実際の走行データから求める方法は2通りある。
(a) static tau
Pは一日の全データのうちCP以下のパワーの平均。一日の中で一定値となる。
(式5)の導出時と同じ方法である。
(b) dynamic tau
Pは現在より前で最後にCP以下となった時刻から現在までの平均パワー。
回復時のパワーに応じてτは変化する。
GoldenCheetahでは(a)が実装されている[4]。
走行データからW’bal(t)を計算する際には、データの時間間隔をTsとして、0からt番目までの減少量の回復後の値を合計する。
W’bal=W’0-Σ(u=0 to t)W’exp(u)×e^(-(t-u)Ts/τ) (式6)
W’bal(t)を順次計算するときに、都度前の時刻0~tの回復後の減少量を計算するにはループが必要で計算量が多い。そこで、逐次計算できるように簡略化する[5]。
W’bal(t)=e^(-t×Ts/τ)×Σ(u=0 to t)W’exp(u)×e^(u×Ts/τ) (式7)
両者の差は小さいことが確認されている[6]。
2.2.2.回復モデル2(differential algorithm)
個人への合わせこみが必要な時定数τを使わずに、簡易的にW’balを計算する方法が考案されている[6][7]。回復速度を定式化するのでdifferential algorithmと呼ばれる。W’balの回復速度は初期値W'0からの減少率と、CPと回復時パワーの差に比例する。
ΔW’bal/Δt=(W'0-W'bal)/W'0×(CP-P) (式8)
走行データから順次計算するには、
W’bal(t)=(W'0-W’bal(t-1))/W'0×(CP-P(t))×Ts (式9)
回復モデル1と比べると、モデル2の回復速度は速い[6]。
なお、いずれのモデルでもW’balは可逆である。一線を越えてオールアウトに達した場合や、糖の蓄えが減った場合の回復速度の変化は考慮されていない。
3.まとめ
走力は、一定パワーでの維持時間に関するCPとW’、パワー変化時の回復速度に関するτの3変数で表せる。計算モデルを使うと、例えばぎりぎり完遂できるインターバルメニューのパワーとレスト時間の設定が可能になる。
いずれのモデルも複雑な生理現象を簡略化している。モデルの精度を上げるためには同じ方法を一定期間使い続け、感覚やメニューの成否と擦り合わせて変数を調整する必要がある。
参考文献
[1] Critical Power: Implications for Determination of VO2max and Exercise Tolerance
[2] Modeling the expenditure and reconstitution of work capacity above critical power
[3] Accuracy of W′ Recovery Kinetics in High Performance Cyclists—Modeling Intermittent Work Capacity
[4] W'bal its implementation and optimisation
[5] W'bal optimization by a mathematician !
[6] Comparison of W’balance algorithms
[7] Intramuscular determinants of the ability to recover work capacity above critical power
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